2012年10月23日火曜日

パイロットフィッシュ

「人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない。」
こんな言葉から始まるこの作品には、とても共感でき、切なく優しい気持ちにさせる言葉がたくさん詰っている。

「こうやって無防備に時間は流れていく。幸せなときもそうでないときも、あまりにも無防備に。そして流れてしまった時間は、突然に音をなくしたこの水槽のように心のなかの奥深くに積み重なって、どうしようもないくらいに積み重なって、やがて手に取ることもできなくなってしまうのだ。」

「君がたとえ僕の前からいなくなったとしても二人で過ごしていた日々の記憶は残る。その記憶が僕の中にある限り、僕はその記憶の君から影響を与え続けられることになる。(中略)これまでに出会ってきた多くの人たちから影響を受け続け、そしてそんな人たちと過ごした時間の記憶の集合体のようになって今の僕があるのかもしれないと考えることがある。」

心の奥深くには湖のような場所があって、そこにはとりあえず必要がなくなって放り込まれていった時間の記憶が沈んでいる。だけど何かの拍子にそれは浮かび上がってくる。
それに手を伸ばしても、沈殿している過去を二度と手に取ることはできない。しかしそれは自分の中に確かに存在している。

自分という過去の記憶の集合体に、この先どう向き合って生きていくべきか。
すこしヒントがもらえた気分です。

パイロットフィッシュ (角川文庫)パイロットフィッシュ (角川文庫)
(2004/03/25)
大崎 善生

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